トキトメ
「待って、前田さん!」

 振り向くと、彼女は、右手を前に伸ばした状態で止まっていた。

 そう。俺がトキトメをした。

 ドアを開けて外に出る。

「良くん?」

「律ちゃん・・・」

 そこに、仕事から戻った彼女が立っていた。

「何で? どうして律ちゃん動けるの?」

「何? 今トキトメしてるの?」

 まずい。

 何て言おう。

「崎田さんの部屋から出てきたよね?」

「いや、その、ゴキブリが出て助けを求めてきたから、退治しに行ってただけさ」

「じゃあ、何でトキトメするの?」

「それは、その・・・」

 彼女はドアを開けると中を覗き込んだ。

「どういう事? 彼女の格好は何よ」

 彼女は、今来た廊下を戻り始めた。

「律ちゃん、どこ行くんだ?」

 彼女は廊下を戻り、エレベーターに乗り込んだ。

 俺も一緒に乗り込む。

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