トキトメ
「気づいてなかったの?」

「ええ。仕事の疲れで、身体のリズムが崩れているものばかりと・・・」

「剛志、まさかあんたの子じゃないでしょうね?」

「だから姉さん・・・」

「わかったわかった。だけど、彼女じゃないなら、どうしてあんたが夜中に連れて来たのよ」

「ちょっと事情があって」

「椛島さん、ご結婚は?」

「してません」

「それじゃ、お腹の子の父親には連絡出来る?」

 父親って、良くんがこの子の父親なんだよね・・・

 胸が苦しくなった。

 最近まで彼氏もいなかったこの私が、初めて関係を持った人との間に赤ちゃんを授かるなんて。

 ごめん。

 良くん。

 あなたを信じられなくて飛び出したりしてごめん。

 涙が溢れて来た。

「椛島さん、大丈夫?」

 先生が心配そうに近づいて来た。

「姉さん、少し待ってもらえないかな」

「・・・どんな事情があるか知らないけど、赤ちゃんの成長は止まってくれないからね」

「彼女もわかってるさ。でも、もうしばらくそっとしてやってよ」

「それじゃまた後で来るわ。ゆっくり休んでて」

 私はうなずくだけで、声を出せずにいた。

 塚田さんは、私が泣き止むまで優しく背中をさすってくれた。


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