トキトメ
「塚田さん、ありがとうございました。もう大丈夫です」

 彼が背中から手を外した。

「・・・どうしましょうか? 僕はこれから会社に行きます。お休みの件は、僕から課長に伝えましょうか?」

「すみませんが、お願い出来ますか?」

「わかりました。それと、前田君には何と?」

「ただ、貧血で入院した・・・とだけ」

「赤ちゃんの事、伝えないんですか?」

「まだ、気持ちの整理が出来てませんから」

「そうですか。わかりました。それじゃ、何かあったら姉に言って下さいね」

「塚田さん、本当にありがとうございました」

「では」

 そう言うと、彼は出て行った。

 独りっきりの病室はとても静かで、自分だけが違う次元に迷い込んだような気がした。

 
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