トキトメ
 昼休み。

 俺は食事するのも忘れて家に戻った。

 そして、彼女の着替えを紙袋に詰めると会社に戻る。

 本当は今すぐにでも彼女に会いたい。

 その気持ちを抑えながら、夕方退社する前に塚田さんに荷物を預けた。

「塚田さん、彼女の事、宜しくお願いします」

「わかった」

 塚田は、預かった荷物を車に積み込んだ。

「塚田さん、今日は電車じゃないんですね?」

 俺と律ちゃんが付き合っているのがバレたのは、塚田さんと彼女が同じ電車で帰って来たからだった。

「夕べ、家に戻ったらすぐに、彼女が吐いて倒れちゃったから、そのまま車に乗せて病院へ行ったんだ。今朝は病院から直行した」

「えっ? 彼女塚田さんの家に行ったんですか?」

「誤解しないでくれよ。彼女、友達何人かに電話してたんだ。でも、誰も都合の付く人が居なくてホテルに泊まるって言うから、僕の家に誘った。すまない。勝手な事をして」

「いいえ。ありがとうございます。塚田さん、朝までずっと彼女のそばにいていてくれたんですね」

「そばって言っても、実はその病院、僕の身内が経営してるんだ。仮眠室やシャワーも勝手に使わせてもらえるから、そこで適当に休んだよ」

「それでも今日は寝不足でしょう? そんな塚田さんに荷物をお願いするのは申し訳ないです。でも、彼女が会いたくないというなら、塚田さんに頼るしかなくて」

「気にしなくていいよ。もう少し仕事が残っているけど、終わったらすぐに行くから」

「ありがとうございます」

 彼は車の鍵を締めると、再び社内に戻って行った。

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