トキトメ
「乗って下さい」

「前田くん、先に乗って」

「はい。それじゃ、失礼します」

 車は、ゆっくりとその場を離れる。

「塚田さん、彼が正式に社員になった前田良太郎くんです」

「前田です。宜しくお願いします」

「営業1課所属、塚田隆志です。しょっぱなから椛島さんに同行だなんて、有望な人材のようだね」

「いえ、そんな事は」

「誰だっけ? 川口君だったかな? 彼が椛島さんと同行したのは、入社して半年後位だったでしょ?」

「あの時は特に、私が出向く用件も無かったからじゃないですか?」

「そうだったかな・・・。まあ、何はともあれ、椛島さんの元で指導してもらえれば、君もすぐに1人前になれるさ」

「塚田さん、いつも私を過大評価し過ぎですよ」

「そんな事はありませんよ。実際、あなたは有能だ。営業部の中でも、あなたに同行したがっている社員はたくさんいるんです」

「ホントかしら?」

「まあそいつらを蹴落として、いつも僕がこのポジションをゲットしているんですけどね」

「そうなんですか?」

 やがて車は、漁港近くの横長い倉庫の前で停車した。
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