トキトメ

 ~良太郎side~


「前田さん、3ヶ月ですっかり仕事にも慣れてすごいですね」

 エレベーターの数字が1つ1つ小さくなって行く中、隣に立っている彼女は、仕事の疲れもまったく見せずに笑顔で俺に話しかけてくる。

「そんな事無いよ」

「でも今日だって、商談に出かけられたじゃないですか」

「商談と言っても、トークは営業の先輩がやってくれるから、俺の出番はないんだ」

「それでも、その場に同行させてもらえるんですもの。すごいです」

 興奮気味に話す彼女。

 褒めてもらって悪い気はしない。

 それに見合った仕事をしているかとなると自信は無かったが。

「崎田さんもすぐ慣れるよ。ところで、崎田さんは電車?」

「バスです」

「家は近いの?」

「今はちょっと遠いんですけど、今週の土曜日に、駅に近くて便利な所に引っ越します」

「そうなんだ」

「前田さんは?」

「俺は車」

「そうですか。それじゃ私はここで」

「お疲れ様」

 彼女はバス停に向かって歩き出した。

 崎田さんは、俺の事を褒めてくれるけど、彼女もすごいと思う。

 以前オペレーターのバイトをしていただけあって、電話応対は先輩達に引けをとらない。

 いろんな引き出しを持っているようで、どんな顧客にも即座に対応している。

 あまり話す事が得意ではない俺から見たら、若いのに素晴らしい人材だと思う。

 男性社員が多い中、誰からも可愛がられるマスコット的存在だ。

 
< 77 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop