トキトメ
~良太郎side~
「前田さん、3ヶ月ですっかり仕事にも慣れてすごいですね」
エレベーターの数字が1つ1つ小さくなって行く中、隣に立っている彼女は、仕事の疲れもまったく見せずに笑顔で俺に話しかけてくる。
「そんな事無いよ」
「でも今日だって、商談に出かけられたじゃないですか」
「商談と言っても、トークは営業の先輩がやってくれるから、俺の出番はないんだ」
「それでも、その場に同行させてもらえるんですもの。すごいです」
興奮気味に話す彼女。
褒めてもらって悪い気はしない。
それに見合った仕事をしているかとなると自信は無かったが。
「崎田さんもすぐ慣れるよ。ところで、崎田さんは電車?」
「バスです」
「家は近いの?」
「今はちょっと遠いんですけど、今週の土曜日に、駅に近くて便利な所に引っ越します」
「そうなんだ」
「前田さんは?」
「俺は車」
「そうですか。それじゃ私はここで」
「お疲れ様」
彼女はバス停に向かって歩き出した。
崎田さんは、俺の事を褒めてくれるけど、彼女もすごいと思う。
以前オペレーターのバイトをしていただけあって、電話応対は先輩達に引けをとらない。
いろんな引き出しを持っているようで、どんな顧客にも即座に対応している。
あまり話す事が得意ではない俺から見たら、若いのに素晴らしい人材だと思う。
男性社員が多い中、誰からも可愛がられるマスコット的存在だ。