「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
「シンファ…ワインでも飲みましょうか?」

「え……?う、うん、そうだね…」

普段、母さんはアルコールをほとんど飲まない。
誰かの誕生日とか、なにか特別な日にしか飲まないのに、そんなことを言い出したから驚きながらも、僕はグラスを二つ、棚から取り出した。



「母さん、疲れてるんじゃない?
話は明日にして、今日はもう休んだら?」

しばらく見ないうちに母さんは一回り小さくなっていた。
目は落ち窪み、頬はげっそりと削げ落ちている。
顔色もあまり良くない。



「ううん、大丈夫よ。
全然、疲れてなんてないわ。」

そう言って微笑んだ母さんの笑顔は、無理に作られたものだとすぐにわかった。
だって、その目に宿っていたのは哀しさだけだったから。



「実はね……
私、故郷に戻ってたの…」

「故郷…?
母さんはこの村の出身じゃなかったの?
じゃあ、ここは父さんの故郷で、結婚したのをきっかけにこの村に来たの?」

「いいえ、そうじゃないわ。
ここは、父さんの故郷でもない…私達とは縁も縁もない…けれど、とても優しい人達が住む村だったから、私達はここに住み着いたの。」



それから、母さんは自分の故郷のことをいろいろと話してくれた。
そこはとても遠い村で、お金もないから母さんは馬車にも乗らずただひたすらに歩いて…
だから、こんなに長い間、戻って来なかったんだ。




「村はすっかり荒れ果ててたわ…
住む人もほとんどいなくなって……今、住んでたのはガーランドさんだけだった…」

母さんは、とても沈んだ声でそう話した。



「ガーランドさんって?」

「……古くから村に住んでる方よ。」

「母さん…でも、どうして故郷に戻ったの?
何か用でもあったの?
それに、母さんの故郷なら僕だって一緒に行ってみたかったのに…」

「シンファ……
ワインを飲んだら眠くなって来たわ。
疲れが出たのかしら?
今日はもう休むわ…」



母さんはそう言い残して寝室に向かった。
結局、それからも母さんは僕の質問には答えてくれなかった。
なぜ、急に故郷に戻ったか…
母さんはどうして故郷を離れたのかも僕はわからず仕舞いだった。

ただ、何かきっと重大な理由があったことだけは、間違いないと推測出来た。
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