「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
「馬鹿なことを言わないで…
空を飛んだことがある人間なんて、この世界じゃ確実に君だけだよ。」

「……そっか。
じゃあ、一度飛んでみない?」

「え……?」

「それとも…高い所は怖い?」

「僕は……僕はそんなもの、少しも怖くない!」



僕は空を飛んだことなんてない。
だから、怖いかどうかなんてわかるはずもない。
なのに、そんな風に答えたのは、きっとさっきのことが頭にひっかかっていたからだろう。



「さて…と、じゃあ…
僕は君を掴めないから、君がしっかりと掴んでいてね。
くれぐれもしっかりと…だよ。
お母さんの村に行くまでは、何かあったら大変だからね。」

どういう風に取れば良いのかわからなかった。
だけど…彼らしい言葉だと思えた。
さっきまでの苛々が、なんだか急に晴れたようなおかしな気分を感じながら、
僕は、彼の首にしがみついた。



「わ…わ…ほ、本当に……」



浮かび上がった。
彼の身体だけじゃなく、僕の身体も同じように少しずつ…
足が何にも触れないことに言いようのない恐怖を感じ、降ろしてくれと叫び出しそうになるのを懸命に堪えた。



「ちょっと待ってね。
態勢を変えるから…」

そう言うと、アズロは空に垂直に寝転ぶような態勢を取り、僕はその上に同じような態勢で重なった。
おかげでずいぶんと楽になった。
ふと、下を見ると、ついさっきまで見上げていた木々が、今ではもう見降ろす位置に変わっていた。



「体重はちゃんとあるんだね。
それに温かい。」

「おかしなゴーストだろ?」

僕は、不安で張り裂けそうな心の内をひた隠して、そんな冗談を返した。



「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。
心配しないで。」



なぜ…という言葉を発する前に気が付いた。
これほど密着していれば、僕の尋常じゃない鼓動が伝わってしまうのも当然だ。
つまらない冗談で言い繕えるものじゃなかった。



「……ねぇ、まるで違う場所みたいじゃない?
同じものでも、見る場所を変えると違って見えるものだよね。
今まで見えなかったものが見えたり、気付かなかったことに気付いたりするんだ。」



山を見下ろしたのは初めての経験だ。
僕は今、この世界で一番高い所にいる。
そう考えると、芯から身体が震えた。



(……見えなかったものや、気付かなかったこと……)



アズロの何気ない言葉が、妙に僕の心に残った。
確かにこんな景色を見たのは生まれて初めてのことだ。



(……見えなかったものや、気付かなかったこと……)



繰り返されるその言葉は僕の心をざわめかせた。
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