「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
「そうだね、そうしよう。」

一人だったら…そして、灯りがなかったら入ることさえ躊躇われそうな場所だ。
暗闇の中から、なにか恐ろしいものが飛び出して来そうな…ふと、そんな子供染みた妄想にかられる。
奥に進めば進むほど、そんな妄想は大きくなって、小さな物音にも殊更に反応してしまう。



なのに、行けども行けどもそれらしきものはなく、もしかしたらこの洞窟じゃないのかもしれない…そんな風に考え始めた頃、アズロが短い声を発した。
僕が、みつけたのとちょうど同じ頃だ。



「シンファ…もしかして、あれじゃない?」

「僕も今そう思った所だったんだ。行ってみよう。」

「えっ!?行くって……?」



僕は松明を片手に高く掲げ、身体を斜めにして隙間を進んだ。
足元もよく見えないし、かと言って、松明を消すのは不安だし…



「シンファ…一体、どこへ行くつもりなの?」

「……母さんの故郷に決まってるじゃないか?」

「まさか、こんな……」

アズロの声が不意に停まった。



「どうしたの?」

「……確かに風が流れてる。」

そう言われても、僕にはよくわからなかった。
だけど、それから少し進んだ所で、僕もアズロの言った通り、風を感じた。



「……本当だ!確かに風が通ってるね。」

その発見で、僕は途端に疲れが吹き飛んだ想いがした。
そして、歩を進める毎に、なんとなく明るさも感じるような気がして…



「あっ!アズロ!出口だ!出口が見えるよ!」

走り出したい衝動を感じたけれど、走れるような態勢じゃなかったから、僕はもどかしさを懸命に堪え、出口を目指した。



「やった!」

「すごい!こんな所に村があるなんて!」



僕達は細い通路からついに外へ出た。



「……出たのは良いけど、ずいぶん寂しいところだね。
とにかく、人を探してみようよ。」

「……う、うん。」



さっさと歩き出したアズロには着いていかず、僕はゆっくりと後ろを振り返った。
僕はついにここへ来てしまった。

ここで、僕の命は終わる…
もう誰からも嫌われることはない。
人に怯える必要もなくなる。

これからの僕は、怨霊となって僕らに酷いことをした人達を恨んで…憎んで…



そう決めていた筈なのに…
僕は今すぐにでもここを離れて、あの村に戻りたい衝動にかられていた。
帰れるのなら、あの狭くて不安な通路だってなんともない。



会いたいんだ……
もう一度だけで良い…
母さんに…ライアンや村の人達に、最後にもう一度だけ会いたい……!



僕は、込み上げるその想いを…
唇を噛み締め、拳を握り締めて、懸命に堪え、ゆっくりと回れ右をした。
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