話術師フェイス
「いえ・・・このままの姿勢でお願いします。」



 あくまで視線は正面を向いたまま口を開く。



 暗闇にまぎれて、山の手住宅街と呼ばれているマンションがまるでドミノのように規則正しく並んでいるのが見える。



 壁紙を白と基調としているマンションは、たとえ星の出ていない夜の暗闇の中でもしっかりと映えており、異様に不気味な存在に見える。



 まるで、このマンション郡が今にも軍隊のように列を成して襲ってくるような・・・そんな錯覚すら覚える。



 おそらく、うさ美さんはこの中のマンション郡の中で暮らしているのだろう。



 もちろん、ただの憶測だけど・・・。



 アルファベットと数字で区分けされているマンションの数は、ここから見えるだけでも軽く10は超え、そのマンションの中ですらいったいいくつの部屋があるのか分からない。



 隠れ家の一つにするにはもってこいだ。



 もちろん、うさ美さんのことだから、ここはあくまで『隠れ家』の一つなのだろうが・・・。



「変わった・・・いや、あなたの立場から考えれば当然の判断か・・・。」



「すいません。」



 とりあえず、あやまっておいた。


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