プリキス!!
行こうとした、というのは実際には行かなかったから。
「あ、あのさっきの子なら、帰りました。」
春瀬は戻ってきた片桐が、何故か挙動不審にそう言ったのを聞いたからだ。
「え、帰っちゃったの?これあげようと思ったのに。」
缶ジュースの入ってる袋を見て、春瀬は溜息をついた。
聖カナンなら渡しにも行けないしなぁ、とぼそりと呟く。
「灰音、女の子と会ってたんですか?いーなぁ。」
春瀬の言った聖カナンに真っ先に反応したのは勿論女好きの下種、北原。
カナンの子は箱入りだから、口説くと真っ赤になって良いですよね〜と言い出す始末だ。
お前カナ女生口説きすぎて出入り禁止になったんだろ、と声を大にしてツッコみたい。
「天と一緒にしないでくれる?俺はあの子を口説いてないし、あの子だってただ親切にここまでコレ運ぶの手伝ってくれたんだよ。」
コ、レ!と春瀬はビニール袋を北原に見せつけて。
そんな様子をみて北原は、灰音ったら照れちゃってー、と春瀬をからかっている。
そこでその話は終わるはずだった。
というのも、顔も名前も知らない“親切な女の子”に北原の興味が注がれなかったから。
「ちなみに……その子、俺より可愛かったわ。」
春瀬がそう言うまでは。