プリキス!!
先に帰ってて、と俺に言うと、めぐは傘もささずに雨降る空のもと歩き出す。
「ちょっと、風邪引くよ?!」
「ひかないよ。俺、病気の類には強いから。」
こないだ高熱で倒れていたくせに。
言わないけど心の中で悪態をつく。
「西巴……。お前が風邪なんかひくと、どういうわけかお前経由でうちの妹まで風邪をひく。傘に入れ。」
呆れ顔の烏丸先輩も烏丸を引き合いに出してそう言うが、一向に話を聞こうとしない。
仕方ないから烏丸先輩の傘を借りて、大分遠くなっためぐの所まで傘をさしに行くけれど。
「めぐ!いい加減……」
「今むしゃくしゃしてるから、頭でも冷やそうと思ってやってるんだ……。邪魔しないで。」
「……何に怒ってるの?北原?春瀬?」
「そいつらは心の中でもう何十回も亡き者にした。で……一周回って、今凄い……初伊に酷くあたりそうで……そんな自分が嫌なんだ……。」
意外な答えだった。
何があっても烏丸にずっと好意しか向けてこなかっためぐの、烏丸に向けての怒りの気持ちなんて……。
「俺、これでも最近人間らしくなってきたんだ。初伊を閉じ込めて、永遠に誰の目にも触れさせないようにしよう…………そういう気持ちを以前の十分の九くらいに抑えてる。」
「それってほぼ前と変わってないって言うんじゃ……。」
「お兄さんが帰ってきてから、初伊は前より楽しそうに笑うようになった。死ぬほど可愛い。初伊の笑顔を見るだけで例え1ヶ月何も飲まず食わずでも生きていける気がする。」
……あれ、何の話してたんだっけ。
「普通の人って、好きな人が嬉しいと自分も嬉しいんだろう?だから俺も初伊が幸せそうなら
それでいいって……思いたいんだけど……お兄さんが初伊の笑顔を作ってると思ったら死ぬほどむかついて……。」
苦しそうな声で続けるめぐ。
雨の雫が、まるでめぐの涙のように地面に降り注ぐ。
「今だって春瀬が初伊に助けてもらったって分かった時に……自分でも信じられない位に春瀬に殺意が湧くし……それと同時にどうして春瀬なんかに構うのって。」
めぐは黒い空を見上げて、自嘲気味に笑った。
「でも初伊は優しいから親切でやってるって分かってる。こんな事で嫉妬するのはおかしいって分かってるんだよ!
なのになんで……初伊に、酷く当たりたいって……泣き顔を見て、許しを請われるまで許したくないって………。笑顔を守りたかったのに、泣かせたいってなるんだよ……。」
俺は俺が分からない。
そうめぐは呟くのと時を同じくして、遠くで雷がなった。