プリキス!!
女の園
聖カナン女学院。
赤いレンガのレトロな校舎は大正期に作られたもので、その面影は色濃く残る。
春は校門の周りに満開の桜を付ける木も、今は緑色の葉が茂っていて、風が吹くたびにサワサワと涼しい音をたてる。
……風が、吹けばね。
七月上旬。
梅雨が開けたのか、ここ毎日は30℃を超える暑さで。
溶けそうになりながらも学校に来ている私をどうか褒めて下さい。
本当ならこんな暑い日は、ダラーっと気を抜いていたい。
だらだらしたい。
クーラーガンガンの部屋でアイス食べ───
「烏丸さん、ご機嫌よう。」
「ご機嫌よう、正徳寺さん。」
駄目よ、気を抜いちゃ。
聖カナン女学院の門をくぐったら、私はちゃんとクイーンの妹として相応しくなきゃいけないんだから。
背筋を伸ばして、口角を上げて、両手で鞄を持って歩く。
道行く同級生には「ご機嫌よう」と言い合う。
上級生の方には立ち止まって挨拶をして。
「ご機嫌よう、初伊さん。今日も瞳が涼やかね。」
「ご機嫌よう、桜お姉さま。お姉さまを少しでも涼しく出来たのなら嬉しいですわ。」
ご機嫌ようの応酬だ……。
毎日のことながら、朝の挨拶は本当に大変で。
特にこんな暑い日は、もういい切り返しも考えられそうにない。
「ご機嫌よう、初伊さん。」
背後から声が聞こえた。
初伊さん、と言うことは上級生?
取り敢えず笑顔で振り返る。
「ご機嫌よう、お姉さ……じゃなかった。天音先輩、おはよーございます。」
なんだ。天音先輩だ。
そう分かった瞬間に、もう私の挨拶からは気が抜けていって。
そんな様子を見た天音先輩は、あははと笑う。