プリキス!!
鈴子さんは、千鳥さんと仲が良かったそうだ。
そして東麻君自身も、鈴子さんの事を母親として慕っていた。
それなのに、利がないと分かった瞬間に夫も、子供さえも捨てた事。
それが彼を、人間不信に変えた。
「僕は何を、信じればいい?誰を信じればいいの?誰も信じられない。蛍だって……。裏切られるのなら、最初から信じない方がいい。」
正しいよね?と同意を求められる。
その瞳は縋るようなもので。
きっと東麻君のその考えは、彼の生きてきた軌跡そのものだ。
だから、根っからの否定はしたくない。しない。
でも……人を信じないって事は、大切な人を作らないということと同じ。
そんなの、寂しくない?辛くない?
私は嫌だよ。
そうやって、東麻君が寂しく生きるのなんて嫌だ。
「蛍君を信じてみようよ。東校生を信じてみよう。」
《怖いよ》
私の提案に、彼はそう答える。
分かるよ。
私も怖かった。
誰も信じられなくて、誰も愛せなくて。
でも一歩踏み出せば、大切なものは今この手に。
「これは受け売りなんだけど……東麻君。人はね、鏡なの。」
「鏡?」
「そう。笑いかければ、笑い返してくれる。楽しめば、共に喜んでくれる。泣けば、一緒に悲しんで……信じれば、相手も信じてくれる。」
『────ねぇ、だからさ、君が泣いたままだったら、誰も笑ってくれないよ?』
まだ小さい頃、一人で泣き続ける私に、名前も知らない男の子はそう言ってくれた。
その子のくれたその言葉は、今の私を作ってる大事な言葉。
お兄ちゃんやお姉ちゃん。天音先輩や橘、恵────
私は大切なものを作ることが出来たから、その言葉を東麻君にも聞いて欲しいんだ。
「そんな都合のいい話……。」
「効果は抜群よ?」
眉を顰める東麻君に冗談っぽくそう告げれば、彼の表情は少し和らいで。
「蛍は、来てくれるかな。」
「信じていれば、きっと。」
「……あいつらは、裏切らないかな。」
「大丈夫だよ。」
信じるのは、タダだよ。
やってみる価値はあると思うの。