プリキス!!
「おいで。」
そう呼べば、彼女は私の膝の上に軽やかに飛び乗った。
体を擦り付けて、ゴロゴロと喉を鳴らして甘えてくるその姿は愛くるしいものだった。
「チェーロ。灰音が何処にいるのか知っていますか?」
“灰音”と名前を出せば、ピクリと彼女は動きを止めて。
「ふふふ……もしかして、今日もまた灰音から逃げて来ましたか?」
言葉は交わせないけれど、その様子から言わんとすることは大体分かる。
チェーロだって女の子。
女の子の気持ちには敏感ですから。
ドタドタドタ……と、走る足音が聞こえた。
それはどんどん大きくなっていって、部屋の前でピタリと止まる。
トントンとノックが聞こえて“どうぞ”と言えば、姿を現したのはやはり灰音だった。
「天、チェーロ此処にいるでしょ!」
「ご覧の通りです。」
「こら!シャワーが嫌いだからって逃げないでよね!」
荒々しい様子の灰音は長い髪をクシャっと掻きあげる。
チェーロは水が嫌いだ。
きっと相当な攻防戦がシャワー室で繰り広げられていたんだろう。
灰音の額にはうっすら汗が浮かんでいた。
チェーロを迎えに来た灰音は、私に近づき、膝の上にいるチェーロを抱き上げる。
観念した様子の彼女は「もう水からは逃げられない……」と言わんばかりの力ない表情をしていた。
用が済んで部屋を出ていこうとする灰音。
そんな彼を私は引き止める。
「灰音。チェーロをシャワーする前に一つ、お願い聞いてもらえませんか?」
「……嫌な予感しかしない。」
引き返して、私のソファーと向かい側にあるソファーに座った灰音。
「チェーロが逃げるから用件は短めに」なんて言ったけれどその刹那、一瞬の隙をみてチェーロは灰音の腕から逃げ出した。
「チェーロ!あー、もう……逃げたのは天のせいだ。責任とって、後であの子をシャワーに入れるの手伝ってよね。」
「分かりました。」
「で、その“お願い”とやらは何なの?」
「人探しをお願いします。」
「あ”……?」
面倒くさいお願いだと分かった瞬間の灰音ったら、眉を顰めて声はドスが効いているなんて……。
折角の美人の女装が台無しである。