プリキス!!
悪役〜side吉良〜
そいつはひどく人懐っこい生き物だった。
それは、初伊に本当に両親がいた頃の事の話。
俺と姉貴、父と、そして……気の強い母と、母の言いなりとなる兄。
それがうちの家族構成だ。
当時父が烏丸のロンドン支社で仕事をしていたので、ロンドン郊外の大きな森のある屋敷に住んでいた。
田舎の大きな屋敷だから、遊べるものは森だけ。
近くに気軽に遊べる友達もいなかった。
これでも世界レベルで有名な“カラスマ”だから、今思えば当たり前かもしれないけれど、当時俺は本当に友達が居ないのが寂しくて、
それでいて暗い餓鬼だっただろう。
父は仕事が忙しく、滅多に家には帰って来なかった。
母が、俺の3つ歳上、つまりまだ7歳であった俺の兄、真央の自由を束縛し始めたのもこの頃だった。
母は兄貴を、烏丸の跡取りにしたいと考えていたんだと思う。
そして、今もそう考えているのだと思う。
うちの大人達は、なんというか歪んでいるのだ。
考え方が、行動が、本能のまま過ぎて。
いつだって被害を被るのは子供なのに。
兄貴は、屋敷の一番端の塔に隔離された。
何故なら、勉強しなければいけないから。
烏丸の社長になる為に……いや、母の欲求を満たす為に。
詳しくは俺は知らないが、当時の様子を知るメイドに聞いたところ、
「本当に真央坊ちゃんが不憫で……お助けしたくて……でも出来ずに終わりました」
涙を浮かべてそう返ってきた。
どうやら本当に、酷かったらしい。
年相応に遊ぶ時間は微塵もなく。
母は兄貴を学校には通わせず、チューター(家庭教師)を雇って全ての学習を兄貴に学ばせていたそうだ。
その間ずっと兄貴の様子を見張り、
兄貴が母から解放されるのは、風呂と就寝時間、そして本当に少しの休憩時間のみだったと聞いた。