プリキス!!
少しも気づかなかった。
初伊は、俺と姉貴と普通にご飯を食べていたからだ。
ダイエットをしている素振りもなかったし、そもそもあいつにはダイエットは必要ない。
「お兄さん。」
「ああ。」
「初伊は、今年も帰るんですね。“実家”に。」
「…………。」
実家というのは、花京家ではない。
初伊にとっての“実家”は、烏丸家という事になっている。
父の、初伊を育てたいという希望によって。
俺の無言を肯定だと捉えたらしい西巴は、話を続ける。
「毎年この時期になると、初伊はやつれるんですよ。多分俺しか気づいていないけど、絶対に元気がない。何のせいか分かってますよね。烏丸真子と烏丸真央にわざわざ会わせに行く意味って何なんですか。」
「俺達は強制していない。あいつらに会いにいくのは初伊の意思で……きっと、“烏丸に居候する花京”として、最低限のマナーを守っているつもりなんだろう。」
何処から調べたのか、西巴はうちの家の事情を事細かに知っていた。
初伊が本当は花京初伊であるということを知っている数少ない一人である。
「マナーなんて関係ないって言ってあげたらいいのに。」
「言っても聞かないだろう。」
お前の知ってる初伊はそういう奴だろう?と問いかければ、西巴は黙った。
「真央には絶対近づかせない。母……いや、真子には会わせることになるかもしれないが、その時は姉貴も俺も初伊から離れない。」
西巴の言わんとすることは、母と真央から初伊を守れという事だろう。
……真央は、初伊にただならぬ関心を寄せている。
それは西巴とは真逆の感情。
何故だか、初伊を嫌っている。
『吉良。』
『あの子と随分仲がいいみたいだけど、自分の行動は考えた方がいいよ。……でないと……』
口を歪めて笑う兄を思い出すと、ぞっとする。
あの時、俺は真央に言われた、『でないと……』の先の言葉が、呪いのように俺を縛って。
俺は、初伊に近づけなくなった。
それからあの日まで、俺は兄を捨てたのだ。