プリキス!!




「はい。」



スッと、など無駄に長くてすらっとした手が差し出される。

この時初めて恵の格好を見た。

平日は制服をゆるりと着こなしている恵だし、休日も一応総長だからと橘に制服着用を義務付けられているものだから、本当の私服を見る機会は本当に少ないんだけど。

紺色のお洒落Vネックに、白いジーンズと凄く大人びている。



それに比べて私は夜用の寝巻き。

これがネグリジェとかだったらまだ可愛いけど私が今来ているのは紛れもない中学校ジャージだ。

だって……!

陰飛羽のジャージ、高級だから肌触り良さすぎなんだよ?!

3年間着てもう出番無しとか勿体無いんだもん!


……女子力の件には触れないでね。



私は素直に恵の手を取った。

立たせてくれるんだと思ったから。

でも、私が甘かったんだ。





“カシャン”と無機質な音がして。

自分の右手に目を見張る。

銀色に輝くそれは、紛れもなくニュースで容疑者が捕まった時につけられるアレだ。




「てっ、手錠……!」

「そ。手錠。」




恵は何だかうっとりした様子でそれを眺めていて、私は何だか冷や汗が出る。

手錠の片方はまだ何も捉えていなかったのだが、恵はそれを自分の左手に付けたのだ。

呆然としているうちに服のポケットから鍵を取り出して、カチャリとそれは音を鳴らして。



「これで……今日は一緒だね?」



ゾッとする程の爽やか笑顔。

もし此処に手錠がなければさながらサッカー部のキャプテンだろう。


夏休み初日。

私の、声にならない悲鳴は誰にも届く事はない。





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