プリキス!!









「え、お兄ちゃんが?」

「うん。一日初伊を貸してくれるって。」




四苦八苦の皿洗い後、居間に通された。

ソファーに座り、目の前ではテレビは放送されているけれど、今はBGMでしかない。




お兄ちゃんは言ったそうな。

私を恵に貸すと。




「貸してくれるって……お兄ちゃんの所有物じゃないんだけどー。」




ちょっとムッとしてしまう。

だってねぇ。

自分の知らない所で自分が取引されてたとか、いい気分にはならないでしょ。




……帰ったら仕返しにお兄ちゃんのアイス食べてやろ。

ハーゲンダッツ・バニラ味、ラストワンだったよね。

悔しがるお兄ちゃんを想像すれば、ちょっと黒い笑みを浮かべてしまう。




そういえば、お姉ちゃんはどう言ったんだろうか。

お姉ちゃんは、恵が正直好きじゃない。

いや、むしろ嫌い。




だから、お姉ちゃんが恵に私を1日貸すのを許すなんて考えられなくて。





……あ。


「お姉ちゃん……今日は天音先輩の家でお泊り会って言ってたっけ。」



楽しそうに……?いや、何故かちょっと頬を染めてお泊りの準備をしていたのを思い出した。


なるほど。

お姉ちゃんは留守にしているから、お兄ちゃんの承諾だけで良かった訳だ。




「北原天音って草食な顔してかなり肉食だよね。あの氷の女王様をね。」

「友達同士の女子会だよ?」



感心したように言う恵に鋭く突っ込めば、彼はニヤリと意味深に口角を上げて。





「まぁ、北原天真と同じ血だからね。あのなんとも言えないチャラさも理解出来るよ。」

「……え?!」




北原天真先輩。

ちょっと変な先輩で、北校連盟総長の彼を思い出す。





「天音先輩と天真先輩って……」

「兄弟だよ。」

「姉弟なの?!」

「気づかなかった?見た目似てるのに。」

「本当だよ!名前も姉弟じゃん!姉弟としか言いようがないのに!」




天音と天真。

名前はそっくりな上に、事実を知った後でよくよく二人の顔を思い出せば、二人とも紛れもない同じDNAの持ち主だ。



そうだよ……。

何で気づかなかったんだろう、私。




「私って鈍いのかなぁ。美琴の時も美琴が東麻組の東麻だって気づかなかったし。」




がっくりと項垂れてしまう。

だって、自分では鋭い自信さえあったのに、突きつけられる現実は“ニブイ”の三文字。アルファベットにしたら五文字だ。




「鈍いのかなぁ、なんて考える余地もないくらい鈍いよ。」


更に追い討ちを掛ける恵。

どうやら私には、考える余地がないらしい。




「鋭くなってやる。えーと、剣山のように鋭くなってやる。」




思い付いたトゲトゲのものは剣山だった。

だけどあれはかなりトゲトゲ。

あれだけトゲトゲしていると、誰かを逆に傷つけちゃうくらいトゲトゲで、トゲトゲがトゲトゲで要するに……




「「トゲトゲ。」」


ハモった。




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