プリキス!!
「話を元に戻すよ。俺が家に入ると、部屋は静かだった。留守かなと思ったんだけど、テレビの音が微かに聞こえたから居間まで行ったんだ。そこで、ソファーにいるめぐを見つけた。そして……めぐの陰で死角になっていた烏丸も発見してしまった……。」
その時の私は、片手に手錠。
爆睡している事を知らなかった橘からしてみれば、一見昏睡状態でもあったらしい。
橘曰く、無理心中を図ったかと思ったそうだ。
「慌てて烏丸の隣で意識を失ってるめぐを叩けば、寝てただけだったし。何で手錠なんかしてめぐの家にいるのか詳しく問いただしたんだけど……」
『初伊は今体中疲れてるから、いたわってあげなきゃいけないの。行成の声がうるさいと、起こしちゃうよ?』と。
橘的にその言葉とこの状況を加味して考えて、えーと、あのトンデモ誤解をまねいたそうな。
確かに、何も知らない人が見たら誤解をまねく言い方と状況かもしれないよね。
そしてその誤解を作り出したのは完全に恵だ……。
「取り敢えず、その手錠は切ってあげようと思って引きちぎっておいたから。」
そう。
起きたら手錠がなくて驚いたけど、取ってくれたのは橘だったらしい。
“取ってくれた”じゃなくて、“引きちぎってくれた”みたいだけど、まぁそんなに大差ないよねと自分に言い聞かせる。
恵は、「折角オーダーメイドしたのに。」と橘に小さな声で不満を漏らす。
私も恵の言葉に思わず、「もったいない……!」と言ってしまえば、橘は驚いた。
「あれしたままが良かったの……?!」
今まで数回しか向けられた事のない、悲壮の中の悲壮といった表情だ。
きっとその言葉の意味は、「烏丸までそんな趣味になっちゃったの?!」……かな。
「違う違う。」
勿論そんな訳はなくて。
「手錠にオーダーメイドがもったいないってことっ。」
急ぎ訂正すれば、良かったぁーと橘は笑みを零したのだった。