プリキス!!
「あのさぁ……。」
口を開いた恵は、思ったよりも低い声を出した。
地を這うような低い声って訳ではないのに、威圧感たっぷりなコレ。
知ってる、この声。何か気に入らない時の恵の声だ。
主に、私が橘を構いすぎた時や、恵が寝ている時にうっかり鞄の中身を全部体の上にぶちまけてしまった時に発動される。(あれは完全なる事故だった……。)
「短いよ、それ。」
何が気に入らないのか、その答えはショーパンの丈らしい。恵は私の足を指さした。
「お、お見苦しい脚をお見せしまして申しわけありません!」
やたら冷めた目で見られて、反射的に謝ってしまう。
ちょっと短いかな?と思ったけど、指摘される程じゃないかなと信じて着てきたんだけど……
いつものスカートに比べたら格段に短いそれ。
やっぱり、着慣れないものを調子に乗って着たら変だったみたいだ。
「うん、やめた方がいいよ。」
恵に肯定される。
分かってるさ、お姉ちゃんみたいに細スラッとした脚じゃない事は。
でもね、恵のいいつけで、私の意図なくこれを着なきゃいけなかったんだから、恨み言のひとつも言いたくなって。
「だって、スカート以外で可愛いの、これしかないんだもん……。」
ポツリと、聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で言えば、へぇと恵は囁いたから、聞こえていたらしい。
「……バイク乗せるから、スカートだと大変だと思ったんだけどさぁ……。
そんな裸同然で、どうぞ見てください、今日の夜の慰みものにしてくださいっていう位のショートパンツ履かれたら、俺気が気じゃないんだけど。」
「裸ではないでしょ。」
「裸だよ。俺は初伊に限り、目視で布の面積的に10分の6未満は裸だとカテゴライズするよ。」
「夏の装い、ほぼ恵基準アウトじゃん!」
「俺ね、嫉妬深いから。知ってるでしょ。」
そう言って、恵はバイクから離れて、私の目の前までやってきた。
そしてウエストに巻いていたモスグリーンの迷彩柄のカーディガンを取り外し、それを私の腰に巻く。
そうすれば、カーディガンのお陰で後ろの方は膝裏まで隠れる長さになって。
「ちょっとはましか。」
ちょっとだけ露出のなくなった私の脚を見て、満足そうに言った。
手を引かれる。
ねぇ、橘は?と、無理やりバイクに乗せられながらも聞けば、帰ったと返ってきた。
「行成のことは、どうでもいいよ。ちゃんと捕まって。行くよ。」
恵は私が恵に抱きつくように捕まったのを確認すると、バイクを走らせた。
───バイクの二人乗りって、やっぱりちょっと恥ずかしいね。