プリキス!!
*
ワオ。
「私……薔薇湯とか、漫画でしか見たことないんだけど……」
連れてこられた部屋の付属のバスルーム。
いつから準備されていたのか、そこには大量の赤い薔薇が浮かべられていたのだ。
現実離れした空間に、思わず一歩後ずさる。
「お嬢さまなら絵になるでしょうねぇ……」
それはどうだろう。
ちょっと過剰な期待をしているメイドさん達。
これがお姉ちゃんだったら、完璧に絵になるだろうけど、私じゃねぇ……。
でもとりあえず、せっかく用意してくれたんだ。
「入らせてもらいますね。」
「え。」
「え?」
入らせてもらう。
そう言うとメイドさんは驚いた。
それを見て私は、今なにか変なことを言っちゃったのかと心配になり、自らの発言を思い出すが何にも変なところはない。
「What are you saying,lady!」
キョトンとしていると、アメリカ出身のメイドさんがケラケラと笑っていた。
「ふふ、お嬢さま。勿論洗わせてもらいますよ。」
「え?」
「ミラノ直送の香油がありますから、使いましょうね。」
アラワセテ、モラウ…………
デジャブのように手を伸ばしてジリジリと迫り来るお姉さま方。
間違いない、このままだと剥かれる。
「ひ、い、きゃあーーーー!!」
死闘、続く事3時間半。
「素敵です……!」
「ありがとうございます……」
キラッキラの視線を向けられて照れる。
薄紫色のウエスト部位に真珠のパールの装飾が施された、オーガンジーのドレスを着せられ、髪はテンション高めなお姉さん達によってふわふわに巻かれた。
香油とか、薔薇風呂とか、ドレスとか。
かなり大変だったし恥ずかしかったけれど、なんだかお姫様になったような気分でちょっぴり嬉しかった。
私の支度が全て終わったからだろう。
メイドさん達は周りを片付けて部屋を出ようとしていた。
「では私達は、吉良様の準備に行ってきますね。」
「あの……私も行っていいですか?」
「では一緒に行きましょうか。」
にこりとメイドさんは笑う。
良かった。
ほら、部屋といえども一人になるのはちょっと嫌だったから。
陰飛羽の家よりは格段に大きい此処には、たくさんの階段や廊下がある。
私の使わせてもらっている部屋からお兄ちゃんの部屋までも、それなりに長旅で。
階段を上っている時だった。
「あら。」
少し甲高い、そして何処か冷たい声が上からしたのだ。
反射的に私は声の主を探して上を向く。
「……真子叔母様。」
そこには、出来れば会いたくなかった真子叔母様の姿があった。