プリキス!!
「これつけたのは、吉良だ。」
「……吉良?」
南城君は頷く。
「ないよ。それはない。」
「なんで無いと言いきれる?」
「……南城君には関係ないよ。」
南城君には関係ない。
けれど、吉良の筈がない。
だって吉良は……私の事を心配しないし、私に興味もないから。
「まぁ正論だな。あって二日の奴に、身の上話をする程お前も馬鹿じゃねぇよな。」
しーんと場が静かになって。
何か喋らなきゃと思ったんだけれど、思いつく言葉がない。
騒がしい店内の声が、辛かった。
だけど……と、話始めたのは南城君で。
「ただ1つ、教えてやる。GPSと盗聴器と、それからヒーローみたいにお前の危険時に駆けつける兄貴。良く考えてみろ。天下のカナ女生なら分かんだろ。」
『何でここにいるのかってそりゃG……自意識過剰だ、お前。たまたまだ。』
『あの男に邪魔されたせいで仲を引き裂かれてしまったけど……。』
『……いい子でまってろ。』
今まで……あの道で、不審者に遭わなかったのは……。
「それじゃあ……わざわざ助けに来てくれたみたいじゃん……。」
ポツリとこぼす独り言。
「さぁな。色々あるみてぇだけど……昨日、他人から見る限りは、ただの兄妹にしか見えなかった。
お前が思ってる程吉良はお前を嫌いじゃねぇよ。」
本当は昨日吉良と会って話すのが、凄く怖かった。
南城君が煙草を吉良に勧めた時は……勢いで啖呵切っちゃったけど……。
その時、兄と呼んでも拒絶しないでくれて、本当は凄く嬉しかったよ。
願わくば、いつか昔みたいに“お兄ちゃん”と呼べますように。
「ありがとう、南城君。」
「夜白だ。」
まだ言ってるの?と苦笑してしまうけれど、もう避けたいとは思わない。
「夜白、ありがと。」
私は夜白から鞄を返してもらって、盗聴器の方を口に近づけた。
「吉良、聞こえてる?……盗聴は駄目なんだよ。でも……百歩譲ってGPSはつけておくね。」
機械を足で踏み付けると、パリンと小さい音がしたから、きっともう壊れたよね。
その様子を見て、くくっと笑う夜白。
本当によく笑う人だ。
そんなこんなでウエイトレスさんがやってきて、注文を取る。
「えーと。じゃあでこの野菜ジュースで。」
夜白はハンバーグセットを頼んだ。
「野菜ジュースで足りるのか?」
「うん。一日分の野菜網羅ー。」
ぶい、とピースサインを作れば、色気たっぷりのいつもの視線でじーっと見られて。
「だからそんなに細いのな。」
「……変態。」
「うるせぇ。」
あ、今のはちょっといらっとしているうるせぇだった。
黙りますよーだ。
急に静かになる場。
騒がしい店内の声に、今度はくすりと笑みをこぼしてしまう。
「なんか、楽しい。あまり話さなくても夜白とは心地いい。」
そりゃどーもと夜白は言った。
「お前も……烏丸のお嬢様の癖にお嬢様っぽくねぇな。」
「それは……褒めてる?」
「最高級の褒め言葉だっつーの。」
そう言って夜白は笑った。
微笑むとか、いつものククッていう乾いた笑いじゃなくて本当に笑顔で、
フェロモン魔神夜白の笑顔は少し幼いみたい。