プリキス!!






「西校はどうだった?」

「すごく楽しかったよ。」



良かったわねとお姉ちゃんは微笑みを浮かべた。



「……でも、良かったの?お姉ちゃん。」

「何が?」

「カナ女の生徒会長の妹が……クイーンの妹が、西に出入りするなんて。」



迷惑にならないか心配だったと呟けば、頭を撫でられて。



「西凛の制服で行ってるんでしょう?なら平気よ。制服を作ってくれた事だけは西巴恵に感謝ね。」



貰った時はドン引いたけどね。





「それに……今更だと思わない?南の副総長が弟なのよ?」


ふふ、と冗談めかして笑うお姉ちゃんだけど、私は凄く驚いた。


わたし達の間で吉良の話をしたのはかなり久しぶりだから。


そして、吉良の事を弟というお姉ちゃんはもっと久しぶりだから。





「───お姉ちゃん、知ってると思うけど、私吉良に会ったよ。……黙っててごめんね。」


「もうっ初伊ってば、なーんで謝るのよ?……初伊の目から見て、吉良はどうだった?」



うーん、そうだねー……。





「不良になってた。」


あははっと、またまた珍しくお姉ちゃんが吹き出した。




「そっか、不良ね。」


「でも、変わってなかったよ。ちゃんと吉良だったよ。」



頭は金髪になっても、バイクに乗ってても、喧嘩をしてても、根底は優しい吉良のままだった。


嬉しかった。








「昔は……楽しかったわねぇ。」



お姉ちゃんはどこか遠くを見つめるように言った。


お姉ちゃんがいう“昔”は、隠飛羽に来る前の話。





小さい頃はお屋敷の庭で隠れんぼしたり、走り回ったり、お昼寝したり……。


楽しかったなぁ。



『初伊ちゃん。この四葉のクローバーは、僕達が兄弟っていう“あかし”だよ!今日から僕がお兄ちゃんだから、初伊ちゃんを守るね!』





吉良。今も私、しわしわになった四葉のクローバー、ちゃんと持ってるよ。


吉良が泥だらけになって探してくれたからね。





「私、吉良を本当のお兄ちゃんのように思ってたし、吉良に大切にされてる自覚もあったから、妹じゃないって……言われて……。」




……何だろう、積み上げた積み木を一気に倒されたような感じがしたの。




あれは、去年の夏の蒸し暑い日だった。

まだ一年も経ってないのに、なんだか凄く遠い昔のように感じる。



あの日、吉良は突然大きな鞄を抱えて、家を出ようとした。


初めは、友達の家に遊びに行くのかなーって位にしか思わなくて。


しばらくして、お姉ちゃんと争うような声が聞こえて。





「お兄ちゃん、ちょっと待ってよ!何処行くの?!」

「吉良。一旦落ち着いて考えなさい。」






吉良は、一度も私と目を合わせなかった。





「お兄ちゃ……。」



そして掴んだ吉良の手を、はたかれて。





「俺はお前の兄じゃない。従兄妹以外の何物でもないし……兄と呼ばれるのも、不愉快だ。」

「え……?」




時間が止まったような気がした。


その数秒が、永遠に感じられるくらい長くて、吉良が何を言ってるか分からなくなった。





「っ、出て行け。出て行けばいいっ!お父様からこの家の家主として指名されたのは私。これは命令よ!」


「言われなくても。」





そして、私たちはバラバラになったのだ。




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