指先カウントダウン
そして、私は結局ちゃんとした自己紹介が思いつかなくて、出席番号と名前とよろしくお願いしますだけを言って席についた。



「…ねー、君も『サクラ』なの?」



ひとまずホッとしてぼやっとしていると、突然前から声をかけられてびっくりする。



『サクラ』くんだ。



「…ううん、私は『桜野』」


「へー、そっか!サクラノ…って、どんな漢字?」


「植物の桜に、野原の野で『桜野』…だけど」



変なことを聞く人だなー、と思った。



けれど、さっきの菜々華の話の延長で『サクラ』くんの漢字がなんとなく気になった。



「…あなたは」


「俺?俺はにんべんに左で『佐』、あんことかの小倉の『倉』で佐倉。同じサクラ同士よろしくな!」



佐倉くん、か。


…へ?よろしく?よろしくって言った?



なんて返事すればいいんだろう、こういうとき。


よろしく?


それとも、こちらこそ?




そして結局私が「よろしく」を返そうとすると、ちょうど佐倉くんは先生に注意されて前を向いてしまった。




…よろしく、言えなかった。


今日会ったばかりなのに、それだけのことがなぜか引っかかる。





それくらいのこと、なんてことないはずなのに。




『同じサクラ同士よろしくな!』




彼の言葉がしばらく頭をぐるぐるしていた。


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