指先カウントダウン
そこにはそう、綺麗な字で書いてあった。


驚いてぼーっと前をみていると、ちらっと一瞬こちらを見た佐倉くんが前を向いたまま小さくピースした。





投げてきたの、佐倉くんなんだ。





男の子に手紙をまわされることなんて初めてで、少しドキッとしながらシャーペンの芯をだす。



そして私はしばらく迷った末、丁寧に、

『私も思ってた。あと、佐倉くん、字綺麗だね』

なんて書いて紙をたたんだ。




あれ、これ、どうやって渡せばいいんだろう。



投げればいいのかな?


でももし失敗したら、佐倉くんがとりに行かなきゃいけなくなっちゃうんだよね。



どうしよう。




…いいや!もう投げちゃえ!




私は意を決してぽいっと前に紙を投げた。


すると私が投げた紙は案の定佐倉くんの席をこえて、かつん、と床に落ちた。




…やっちゃった。




しまった…なんて思っていると、前の佐倉くんがゆっくり立ち上がる。


そしてそのまま私が落とした紙を拾いあげた。



「そこの君、どうしたの」


「あーすいません、消しゴム落としちゃって」


「次からは申告してから立つように」


「はーい、すんません」




先生の問いかけもするりと交わして、席につこうとする。


そして座りながらこちらを見て、今朝とおんなじ顔で笑った。




佐倉くんは、顔をくしゃっとして笑う。



素敵な笑顔だな、なんて思っていると授業終了の鐘が鳴った。





どうして、佐倉くんは私に紙を投げたんだろう。



おんなじ『サクラ』だから?



だったら、私のこの名前は新しい友達を作るのに役立ったってことだよね。



今まで特になんとも思ってこなかったこの名前を、私は初めてありがたいと思った。
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