† トータル †
好きな人と結ばれ結婚し、子どももいる。
ありふれた家庭が、許せなかったんだ。
狂い、自分の見えなくなったお兄さんが、1つだけ覚えていたこと。
それはオレの存在だった。
お兄さんは、オレがお兄さんを好きだったことを知っていた。
例え恋愛感情じゃなくても。
例え“近所のお兄さん”として見ていても。
自分をどんな形であれ“好きだった”オレを、お兄さんは覚えていたんだ。
女を憎むお兄さんは、まず母さんをナイフでメッタ刺しにした。
母さんを助けに来た父さんも、一緒に殺した。
父さんは“男”だったから、首を切っただけで終わった。
家には、オレと妹がいた。
まずお兄さんは、“女”である妹を殺した。
そして、オレを殺そうとした瞬間。
お兄さんは何故か勘違いした。
『“女”(妹)を抱きしめるこの子は、“オトコ”だ』と。
自分を好いてくれたオレを、守りたかったのかもしれない。
勘違いを、することで。
オレを救い、外に出たお兄さんの服は、血飛沫で汚れていた。
それを不審に思った近所の人が通報したため、お兄さんはオレの両親と妹を殺しただけで済んだ。
オレは、お兄さんにこれ以上罪を犯してほしくなかった。
大好きな・・・初恋の、お兄さんに。