世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話

 彼に出会う前にも、男の子と付き合った事はあった。

「さくら、男に免疫なさ過ぎ。そのまま大学行ったら、変な男に騙されちゃうよ」

 高校の終わり、当時一番仲の良かった女の子から言われて紹介されたのは、6つも年上の大学院生の男の子だった。
 女の子と付き合うのは私が初めてだという、穏やかで優しい人だった。
 何を話して良いのか分からなかったから、買ったばかりというスポーツカーの助手席で、いつも世間話をしていた気がする。

「さくら、何考えてるの?」

 唇を離しながら、彼が拗ねたように私の目を覗き込んだ。

「他の男の事、考えてただろ?」

「え! なんで!?」

 慌ててドギマギと聞き返すと、

「ウソ、マジで!?」

 と彼はがっくり肩を落としてため息を吐いた。
 会社では頼りになる上司だったのに、私の前ではとっても子どもっぽい人。私にしか見せてくれないそんな素顔が大好きだった。

「で、それは、どんなヤツ?」

 彼は私のほっぺたに手を当て、私の顔をじっと覗き込んだ。

「まさか、会社の誰か!?」

「修一くん、……もしかしてヤキモチ焼いてるの?」

 私が聞くと、彼はぱくっと私の首筋にかみついた。

「……あん」

 変な声を上げてしまい、真っ赤になる。

「もう!」

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