世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話
キョロキョロしている内に彼が部屋を選び、鍵を受け取り、狭苦しいエレベーターに乗った。
学生時代の友人たちがラブホテルの事を話していたのを思い出す。どこどこは良いとか、どんな事をしただとか。その頃は、まるで興味もなく、ただ上の空で相づちだけを打っていた。
彼にエスコートされて狭い玄関を入ると、フローリングの木目に腰壁と小花柄の壁紙。思いの外、明るい雰囲気。と言うか、妙にラブリー、可愛らしすぎるくらいの部屋だった。
「へえ、ラブホテルの中って、こんな風になってるんだ~!」
部屋の真ん中には大きな天蓋付きベッド。なるほどね。外見を思い浮かべる。確かにお城風だったわ。
寝室からつながったところにあるガラス張りのバスルームには何と猫足付きのバスタブが置かれていた。バスタブはこの部屋にぴったりだけど、ガラス張りってのは天蓋付きベッドにはちょっと似合わない。もっと現代風なスタイリッシュな部屋向きだよね?
って言うか、これって、わざわざ見えるようにガラス張りなんだよね? 見えるって、何が? 思わず心の中でひとりツッコミ。
……みんな、ここでアレをするんだよね、そう思うとはしゃぐ自分が何だか恥ずかしくなってしまう。
そんな私の何を観察していたのか、彼は面白そうに言った。
「ふーん。本当に入った事なかったんだ?」
彼が何気なく言ったその言葉にカチンと来て、楽しかった気分は一気に吹っ飛んでしまった。
今入って来たばかりの部屋から出ようときびすを返すと、彼が慌てて後ろから抱きしめてきた。
「もう、修一くんなんて知らないんだからっ!」