世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話
「ごめんっ! さくらがあんまり可愛いから……。この間まで、さくらに彼氏がいた事があるなんて、想像もしなかったから、俺、どうにも焦ってるみたいで……」
だからって、その言い方はないじゃない? 正真正銘、私のバージンを奪ったのは修一くんなんだから。それとも、それまで疑ってるの? っていうか、あれって疑えるもの?
そのまま、彼は私を抱きしめる腕に力を入れて、私の耳元で「許して、さくら」と切ない声でささやいた。
「なんで彼氏がいなかったと思ったの?」
ドアの方を向いたままに聞いてみる。
彼の焦る気持ちは実は嬉しい。愛されてるんだなって気がするから。でも、やっぱり何か悔しいんだ。確かに初めては修一くんだけど、私にだって彼氏がいたっておかしくないじゃない? 私だって、修一くんには当然、過去何人も彼女がいたに違いないって思ってるもの。
「K女って、不純異性交遊厳しいじゃん」
「え?」
そこ? って言うか、そんな有名だったんだ?
確かに、不純異性交遊ってのには本当に厳しくて、若い男の人の運転する車の助手席に乗っているのがバレただけで生徒指導室に呼び出しってくらいだった。
友だちが引っつかまったのをヤキモキしながら教室で待ったあの日が懐かしく思い出された。