世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話
少し離れたところで、私たちのやり取りを微笑みながら見守っていた女性職員がスッと私たちの方に近づいて来た。
「そろそろお時間です。ご準備はよろしいですか?」
心からの笑顔が気持ちいい。
彼が私の手をキュッと握った。
「はい」
私と彼の声が重なる。
私は手に持った大きなカサブランカのブーケを握り直し、彼は私の方に肘を尽き出した。
私がその腕にそっと掴まるのを見届けると、女性職員が笑顔で告げる。
「それでは、ドアを開けますね」
両開きの重厚なドアが2人の職員によって左右に押し開かれた。
『新郎新婦入場。
盛大な拍手でお迎えください!!』
いかにも楽しげな司会の声。
会場内には、華やかなクラッシック曲。
私たち2人をここぞとばかりに照らすスポットライト。
目の前に広がる数々の円卓と笑顔の人々。
「さ、行くか」
「うん」
それこそ盛大な拍手に呼ばれて、私たちは最初の一歩を踏み出した。
私たちが選んだのは人前婚。
永遠の愛を誓うのは、これからだ。
(完)