神様の憂鬱
「なにしてるの?」

そう言いかけて、口をつぐんだ。

彼女の瞳からは、ひっきりなしに涙が流れている。

数秒に一回の瞬きのたびに、大粒の雫が頬を伝う。

ボクのことなんて、まるで見えていないようだ。

視界には入っているのに、認識されていないのかもしれない。

ボクだけではなく、正面にある壁も、鏡台も彼女にとってはないに等しいのだろう。

彼女の瞳は、何も写していないのだから。

虚ろな目――そこから連想されるのは無。

まったく感情がない。

あるのは悲しみ。

それも底のない、どこまでも続く暗闇。

また一粒雫が流れた。

音もなく滑る水は、掛け布団の上で組まれた手の甲に落ちていく。

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