神様の憂鬱
「ボクには、その理由がわからないんだ。

キミは、どうして紗良奈が死にたいのか知っているのかい?」

聞いてはみるが、天歌は曖昧に笑顔を浮かべるだけ。

知ってはいるけれど、教えてくれないということか。

ひとり納得して、ため息をついた。

ピン、ピンと再び彼女が弦を鳴らす。

今度は歌うことはしない。

ただただ、旋律がこの場に流れていく。

ボクも黙って空を見上げていた。

東のほうの空が、ほんのりと赤みを帯びている。

そろそろ夜が明けるようだ。

紗良奈の部屋に帰らなくては。

「じゃ、ボクは行くよ」

立ち上がって呟くと、指をとめることなく天歌がボクを見上げた。

そして、ひときわ強く弦を弾いた。

余韻の波が、空気を大きく震わせる。

「主様」

天歌がにっこりと笑ってボクに言った。

「人間は、その相手を信用できたときに、自分の秘密を打ち明けるものですわ」

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