神様の憂鬱
「平気。ほら、こぼしてないし」

「そうね」

後ろに立って眺めてくる。

「ボクが持っていくから座ってて」

「あら、ありがとう」

用心深くカップを両手に持ち、テーブルの上に置いた。

紗良奈がテレビをつけてチャンネルを回す。

ブラウン管をけだるげに眺めたままで指を伸ばした。

白いカップを引き寄せて持ち上げる。

ふーふー、と唇をすぼめて息を吹きかけた。

追い払われた湯気が、ボクのほうに逃げてくる。

ボクは二人分の湯気を浴びながら、真っ黒な液体を飲んでいた。

白いカップがゆっくりと移動する。

紗良奈の口元でとまり、軽く傾けられた。

ずずっと、濁った音が部屋に響く。

そんな光景を、ボクは横目で眺めていた。

初めて淹れたボクのコーヒー、味はどうなんだろう? 

そう考えながら。

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