神様の憂鬱
一瞬で、男の姿が消えてなくなる。

「あっ」

間抜けな声が、路地裏にこだました。

紗良奈を掴んでいた男が、口を開けて固まっている。

「おまえ、いま、なにした? あいつはどこだ?」

その表情には、微かに怯えが表れている。

ボクは、それを無視して男にも手をかざす。

次の瞬間には、路地裏にいるのはボクと紗良奈二人だけ。

「仲良しなんだから、一人じゃ寂しいでしょ」

くっくっくと喉を鳴らし、立ち尽くしている紗良奈に近寄った。

けど、

「待って!」

と彼女が張り詰めた声を出す。

怯えたように後ずさり、

「なにしたの?」

と震える声で訊ねてきた。

「あなた、誰? 何者なの?」

「ボク? 神様だって言ってるじゃん」

男たちに向けたのとは種類の違う笑みを浮かべ、

「帰ろう」

と手を差し出した。

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