神様の憂鬱
「例の男がさ、呼んでたんだって、サナって」

「そうでございますか」

「だからそう呼ばれると、思い出しちゃうんだってさ」

「思い出す?」

天歌が、小さく呟いた。

「ん、自分のしたこと。許される範囲を超えてしまったことを」

「範囲? でございますか?」

「そ、範囲。なんだろね? 範囲って」

「あたくしにはわかりませぬ」

悲しそうに、彼女がかぶりを振る。

「だよねぇ」

手のひらについた小さな砂利(じゃり)の粒をパンパンと打ち鳴らして払い、

「で、どうなの?」

と聞いてみた。

なにがでございますか? なんて今度は聞いてこない。

ボクの浮かべる真剣な表情に気づいているからだろう。

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