神様の憂鬱
あの日以来、紗良奈はボクに対して他人行儀になった。

なにをしても決して怒らなくなったし、小さな文句も言わない。

丁重(ていちょう)に、丁寧にもてなされている。

まぁ、ボクの正体が神様だと知り、

自分の願いを叶えてもらおうと思っているのだから無理はないのかもしれない。

ことあるごとに、機嫌を取ろうと試みてくる。

頼みもしないのに、目の前には常に満杯のコーヒーが置かれている。

そしてタイミングを計るように、そっと聞いてくるのだ。

あの人は――見つかりましたか? と。

「まだだよ。もう少し時間をくれる?」

苦笑交じりに呟くと、そうですか、彼女が寄り小さな声でささやく。

そんなやり取りが、一日、最低でも十回は繰り返されていた。

ただそれでも、ボクにはまだ決められなかった。

紗良奈の望みを叶えるべきであるかどうかを。


確かに、会わせることはとても簡単。

その場所まで連れて行き、はいどうぞ。

それでおしまい。

カケは、ボクの勝利。

あとは、紗良奈は紗良奈、ボクはボク。

好きなようにやればいい。

そう。

そうなんだけれど――


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