神様の憂鬱
「紗良奈?」

呟くと、彼女が一歩踏み出した。

そしてまた固まる。

信じられないものを見たように。

数秒後、よろよろと、彼女が歩き出した。

もしここに、事情を知る一般人がいれば、きっとものすごく慌てるだろう。

でも心配はご無用。

ボクは神様だからね。

ちゃんと準備は万端(ばんたん)。

本当は彼女自身に力を使って、透明人間のようにしてしまえばいいのだけど、

今更だが賭けのルールを思い出したんだ。

「彼女自身に力を使ってはいけない!」

それが、天歌の決めたルールだったから。

だから、ボクは彼と――彼の隣の人、そんでもう一人に力を使うようにした。

ボクと紗良奈のことが目に入らないように。

だからボクはゆっくりと紗良奈の元へ進み、ゆれる腕をやさしく掴んだ。

そして、

「どうする気?」

と訊ねた。

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