神様の憂鬱
ただ、男の声が聞こえた。

それと同時に、紗良奈の動きが止まった。

「あのな、貴史」

言い辛(づら)そうな、途切れ途切れの言葉が続いていく。

「パパ、お前にいわなくちゃいけないことがあるんだ」

「なぁに? パパ」

小さな男の子が、無邪気に男を見上げている。

「お前の誕生日のことなんだけど――」

「うん! 約束したよね? 遊園地! 

パパとママとぼくと、三人で朝から遊園地に行って、一日中遊ぶんだ!」

うれしそうに、まだ来ていないその日を思い浮かべて、男の子が目を輝かせる。

それを見て、男の顔がひきつった。

助けを求めるように、子供を飛び越えてその先を見る。

長い黒髪を大きな飾りのついたピンで結い上げた女が、微笑みながら首を振った。


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