神様の憂鬱
「ずるい、ずるいよ! 約束したのに。

パパなんて嘘つきだ! ダイッキライだ!」

そのまま数分、子供は泣き喚(わめ)き続けた。

紗良奈は、男の数歩手前で止まっている。

「パパなんて嫌いだ! 絶対、絶対許さないんだから」

嗚咽交(おえつま)じりの言葉が、途切れることなく続く。

小さな手をぎゅっと握り締めて、ひっくひっくと苦しそうに息をしている。

「パパなんてもういらない! どっか行っちゃえ!」

子供がそう叫ぶと、男の目が悲しそうに細まった。

右の手のひらをおでこにあてて、小さくため息をついた。

空を見上げるようにして、ゆっくりと両目を閉じた。

紗良奈が、一歩踏み出した。

そろそろと、男に近づいていく。

ボクは、じっと全てを観察していた。

紗良奈と男、女、そして小さな男の子、彼らをそっと見つめていた。

それと同じように、男と子供を黙って見ていた女が、子供に話しかけた。

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