神様の憂鬱
「お待ちください。覗くのはなしです」

「どういうことだい?」

ボクは、力を抑え聞いてみる。

「あそこにおりまする者は、ここしばらくの間、

毎日こうしてあたくしの社に祈りに来る娘。

おかげであたくしはひと時もここを留守にすることができませんの」

「弁財天たるきみが、ひとりの人間のために縛られているわけかい? 

そんなの無視して好きなところに行けばいいじゃないか? 

どうせ彼らには、きみがいるのかどうかなんてわからないのだから」

苦笑交じりに呟いた。

「そうもいきませぬわ。

たとえ一人であろうとも、このあたくしに祈りを捧げるものがあれば、

留守にするわけにはいきませぬ」

「熱心だねぇ、きみは」

肩をすくめるボクを見て、ちらりと娘に瞳を向けた。

その眼差しには、慈しみ。

そして、ほんの少しの哀れさ。

ボクでなければ気づかないような小さなもの。

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