神様の憂鬱
「ねえ、これから暇?」

「これからって?」

かばんから出したハンカチで目じりを押さえながら彼女が言う。

「これからは、これからだよ。この後のこと」

「特に、用事はないけど」

「じゃあさ、ボク、暇なんだ。かまってよ」

「かまってって――」

彼女は絶句するように口をつぐみ、

「なにするの?」

と訊いてきた。

その瞳には、再び警戒心が浮かぶ。

だからボクはそれを吹き飛ばすように言った。

「人間の世界を案内して欲しいんだ」と。

彼女は不思議なものでも見るようにボクを見つめ、ため息混じりに言った。

「あなたも人間でしょ」と。

どうやら、まったくといっていいほど、ボクのことを神様だと信じてくれていないようだ。

ま、でもそのほうがいいのかもしれない。

また証拠を見せろと言われても困るのはボクだし。
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