神様の憂鬱
「つまらなくないよ。聞きたい、聞かせて」

「嫌よ。話したくないの」

つっけんどんに、そう返される。

かわいくないなぁ。

ま、いいや。

聞いちゃうし。

「紗良奈の――その家? 

住んでいるところは、この近くなの?」

「そうよ。ここから歩いて十分くらい」

「どっち?」

「向こうよ。あの木の向こう側。

茶色くて高い建物があるでしょ? そのまた向こう」

気だるげに指先を右に伸ばす。

「ふーん。じゃあ、今からきみはそこに帰るわけだね?」

「そう。帰るのよ。だから、あなたも帰れば?」

「ボク? ボクはどこにも行かないよ。しばらくはずっとここにいる」

「ずっとって、夜まで?」

「そうだねぇ。夜になってもいるし、朝になってもいると思う」

天歌を見上げ、ねぇ、と心の中で呟く。

< 72 / 200 >

この作品をシェア

pagetop