神様の憂鬱
すると、不意に懐かしい気配を感じた。

それを辿(たど)るように進むと、二つの隣り合った社(やしろ)が目についた。

あれ、いいもんみーつけた。

ボクは高度を下げて、社の上にちょこんと座る。

「ねー、いるー?」

呼びかけると、何もなかった空間に、ひとりの女が現れた。

その姿は幾重にも重ねた着物。

赤を主体にグラデーションがかっていたりする。

秋の紅葉のような色使いだ。

「やー、久しぶりだね。弁財天」

声をかけると、正面に立つ女は、

「おや、まぁ」

と高い声で驚く。

「ずいぶんとお久しぶりですこと。珍しいお客様ですわ」

朱色の袂(たもと)で口元を隠しながら、コロコロと鈴を転がすように笑う。

その拍子に、高く結い上げてある黒髪の後れ毛がふわふわと揺れて宙に舞った。

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