非 常 階 段
朝。
教室の中から聞こえる騒がしい声。
賑やかで楽しそうな笑い声。
弾むような話声。
たまに聞こえるふざけ半分の怒声。
全てが、あたしには関係のない世界。
ドアを開ければ、騒がしかった声がピタッと止んで、
「 ・・・・おはよう、城田。」
教室の中心。
我が物顔で机の上に足を乗っけて、此方に背を向けている彼奴。
黒い艶やかな髪。
あたしによく向ける、冷やかさを留めた切れ長の目。
高い鼻筋、たまに悪戯気に口角を上げる薄目の唇。
すらっと伸びた長い脚に綺麗な骨格。
そんな端正な容姿とは裏腹に、心は真っ黒に染まっている。
あたし、城田幸那(しろたゆきな)が大嫌いなこの男、西条楓太(にしじょうそうた)。
いつものように、取り巻きに囲まれて、読めない瞳を此方に向ける。
「 いつもより、遅い出勤で。」
西条の言葉を無視し、自分の机へと向かう。
沢山の悪口が刻まれた机。
・・・・今日は椅子を隠したのか。
其処に乱暴に鞄を置けば、待って居たと言わんばかりに足を払われる。
バランスを失い転べば、足首に鈍い痛みが走った。