非 常 階 段






あたしに対するいじめには、予兆というものがなかった。
それは、唐突だったのだ。
朝、いつも通りに学校に行くと、あたしの机といすがなくなっていた。
訳が分からず、周りを見回しても、いつものように話に夢中。
あたしの場所だけが、別の世界に行ってしまったみたいだった。




それからというもの、あたしの世界に光は存在しなくなった。
学校では、いじめが酷くなっていき、家は家で、両親の仲が険悪になっていく。
まるですべての不幸があたしに押し迫ってきたように感じた。






「 ・・・・なんで、学校に来てんだろ。」






何度目か分からない疑問を呟いてみる。
あたしの教室を右にまっすぐ行って突き当りにある非常階段。
其処が最近のあたしの逃げ場だった。
この非常階段は割合広く、此処に居ても廊下からは見えない。
授業を受けず此処に居てもばれないのだ。








晴れないあたしの心とは裏腹に、空は快晴で、飛行機雲が走っていて。
ぼんやりと蒼空を見上げる。
いまだにわからない。
西条が何故、あたしをいじめるのか。
そして、ただいじめるわけじゃない。
取り巻き達があたしに危害を加えたところで、彼奴はいつも楽しくなさそうな表情をする。
まるで、いじめなんかくだらない、とでも言う様に。
彼奴の心は全く読めない。
読めないし、分からない。
あれほどまでに仲良かったあたしたちが何故・・・・。






「 ねー、あそこまで競争しよっか。勝ったら、次の鬼ね。」

「 えー、いつも楓ちゃんが勝ってるもん。幸那もちょっとは逃げたいよ。」






ダメだ。
思い出したらきりがない。
拭っても拭っても消えない記憶。
あたしたちは、仲が良かったのだ。






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