♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
春子と礼士は、そう言う恵に連れられて、図書室に行く事になった。

夕焼けの光差し込む、この時間帯の図書室は、独特の物悲しい雰囲気を醸し出していた。

だが、それは夕方だから、と言う訳では無く、十月も下旬と言う、哀愁が漂う季節がそうさせていたかもしれない。

机を挟んで、恵と向かい合わせになる様に、春子と礼士の二人は着席し、恵にある一つの雑誌を紹介されていた。

「『稲月高校広報誌』-

これは?」

二人は、恵の方に視線を投げかけ首を傾げた。

恵は、答えた。

「まあ、普通はこんな雑誌、一般生徒が好んで読むものじゃないけれど。

実は、この広報誌に、最終的にあの子がああなってしまった事の発端があるの。

…あの子の心が歪んでしまった原因は、ここから始まった。」

そう言って恵が開いて指さしたページ。

二人は、その書かれてある記事と、載せられている写真を見て驚いた。

-「稲月高校美術部に二つの新星現る!輝きの魔術師達」

…使われているナイフは、どこにでも売られている単なる果物ナイフ。

だが、それが彼女達の手に取られれば、たちまち絵画に輝きを与える魔法の杖となる。

九割ほど固まりかけた、厚塗りの油絵の具の表面を、絵を展示する会場の照明の種類、光の当たる角度を計算し、削っていく事によって、作品の持つ素晴らしさが二倍、三倍にも引き出される。

この技術を駆使し、入部してわずか三ヶ月の一年生コンビ、雪野恵さんと小谷静さんは見事、県が主催する春風展で、最も優れた作品に贈られる夢桜賞を受賞…-

「こ、これって!

この写真に載っているのって…」

「…そう、私と静。そして『輝きの魔術師』の呼び名は、元々私だけの物じゃない。

私と静、二人合わせたコンビの呼び名だったの。

それだけじゃない。この技法を発見し、率先して作業していたのは静の方で、コンビと言っても私はむしろアシスタントの立場だったのよ!」
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