♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
春子と礼士の二人が驚いたのも、無理はなかった。

「雪野さん?私も最近、ナイフの技法をやり始めたんだけれど、やっぱり雪野さんみたいにうまくいかなくて、少しへこんでるんだ。

…そこでさあ、自信を付けたいから、少しの間、ナイフ取り替えっこしない?

雪野さんのナイフ使えば、何だかうまくやれそうだし、私のナイフが雪野さんに握られる事によって、御利益あるかもしれないから…」

「私達の視線が厳しすぎておかしくなった?」

「まさか、後でばれるのを覚悟で、恵さんの絵画をつぶすのを優先しに来るなんて…

行くよ、ハルちゃん!」

「了解!」

二人も、京子に負けじと急いで京子に詰め寄った。

突然の二人の行動に驚く京子から、ふたりは理屈抜きに京子からナイフをさっと奪い取り、用意していた木の板目掛けてそのナイフをガツッと突き刺した。

果たして、そのナイフは先端が取れ、中からドロッと赤い絵の具が垂れだした…



「…そう言う事だったのね。おかしいと思ったのよ。

今回の、第7回浅野展の出品作品の、作業追い込みラストの日に、雪野がアンタ達が見学にこの美術室に来るのを認めただなんて。

人一倍、ここぞという時には誰も寄せ付けたがらず、果ては、ナイフを使う仕上げの時は、この美術室の隣の教室、第二美術室に絵画作品を私達に運ぶのを手伝わせてまで一人で作業したがるあの子が。」

美術室の外の廊下に、春子と礼士の二人に連れ出された京子は、自分のやろうとしていた事を悪いと思うでも無さげに、ふてぶてしい態度でそう語った。

「そこまでして、あの女の片棒を担ぐなんて、何で?

今のアナタの行動を見れば、あの女の為なら、例え火の中、水の中ぐらいの決心さえ感じちゃったけれど。」

「どうして、あんな強引なやり方…」
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