♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
…今、恵の意志により、第二美術室は完全に恵一人の貸切になってしまっていた。

春子と礼士、そして京子を除く他の部員達は、元の美術室に戻っていた。

再び始まった、無機質な喧騒を前に、春子と礼士は、用意された椅子に、横並びになって座っていた。

しばらくの間、その喧騒をボーッと見守っていた二人だったが、ふと、礼士が春子に話しかけた。

「…さっき、第二美術室から出て行く前に、念の為、恵さんの肌身離さず持っていてもらった果物ナイフをチェックしたけれど、なんの変哲もないナイフだった。

…これっていわゆる、終了だよね?事件解決だよね、ハルちゃん?」

「…だと良いんだけれど。」

そのまま、二人はまた黙々と、無機質な喧騒と向かい合い、何とも腑に落ちない表情をしていた。

だが、しばらくして何気なく礼士がつぶやいた言葉が、この事件を急展開させるきっかけとなった。

「それにしても、当たり前というか、恵さんのさっき運んだあの作品、赤色らしき物が、一切使われていなかったよなあ。

…って事は、やっぱりあの紅葉公園で描いていた作品も、見る事は出来なかったけれど、赤は使われていなかったって事だよな。」

「そりゃあ、そうじゃないですか、礼士先輩。

赤さえ使わなければ、安心して恵さんは作業に没頭…




…安心?安堵!?」

-俺様にはあの表情が、怯えではなく、安堵している様に見えるが?-

春子は突然、忘れていたあの、紅葉公園での、ヴァンパイア礼士とのワンシーンを思い出した。

-そういえばアイツ、酷く怯え疲れきって悲しそうだったあの時の恵さんの表情をみて、安堵、つまり、安らいでいる様に見えると確かに言った!

…でも、それって、どういう感情?-
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