♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
「あ…あの、ハルちゃん。

一体、どうしたの…」

「しっ!静かに!」

今、春子の心は、あの時の紅葉公園の地に降り立っていた。

静と動。耐える紅葉に散る紅葉。

半狂乱になった恵の動に対して、あの、小谷静の描いた作品のごとく、恵の心は生への執着から暴れるだけ暴れて散り、静へと変わった…

「開…放…感!?

散々、自分の精魂込めて描いた作品を、果物ナイフでメッタ刺しにして、そのあげくの安堵、開放感…

もしかして私、あの時の恵さんの感情、読み違えてたんじゃ!?」

その時、突然勢い良く美術室の扉が開き、誰かがずかずかと侵入してきた。

そしてその人物は、声を張り上げて叫んだ。

「雪野さん、雪野さん!何処にいるの!

…あら、あなた達?何でこんな所にいるの。

まあ、いいわ。あなた達、雪野恵さん、見なかった?」

そう言って、美術室に突然現れた人物は、あの演劇部の太田部長だった。

側では、随分やっつけられたのか、しょげ返っている京子がいた。

「ど、どうしたんです、太田部長!そ、そんなに大声を張り上げて…」

礼士が、太田部長のあまりの剣幕にビビりながら尋ねた。

太田部長は、引き続き強めの口調で答えた。

「この子が、部室からマジックナイフを無断で持ち出したのが分かったから、連帯責任で、美術部の子には、当分備品を貸し出さない事にしました。

だから、正当な手続きを踏んで借りていったあの子には悪いけど、返してもらう事にしたの。」

「えっ?あの子って?誰が、何を?」
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